技術流出

技術流出

日本半導体の失敗の大きな原因として技術流出はなぜおきたのか、について考えたいと思います。莫大な経費と時間を費やした半導体技術がいち早く韓国に流れ日本半導体を淘汰し、その韓国の最先端技術もまた中国その他に流れているのは自明の事実です。だったらなぜ何のために我々は半導体を作り上げたのか。技術が利益にならないならリスクを背負って開発を続ける意味があるのか。一国一企業のもんだいではなく、製造業の世界史の流れであり、半導体はもとより、モノづくりのマネージメントにおいて最も大事なことだと思うのです。

技術流出リスト

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技術者が買収された

大きな理由のひとつが技術者の買収です。元来、後進国は先進国に永遠に勝てないとされていました。モノ作りは小さなノウハウの塊で技術の差は縮まらないどころか、どんどん開いていくと。かって最貧国のひとつだった韓国と電子立国の先頭を肩で風をきるように走っていた日本がそのよい例になる、はずだったわけです。しかし悲しいかな、歴史は瞬く間に覆されたことを認めないといけません。
なるほど、小さなノウハウの塊も技術者を買収してしまえば、時間的に大きくショートカットできたのです。技術者が数十年以上かけて築き上げた技術も、そのままもっていってしまえば、1か月もすればまったく同じものがそこにできてしまう。数万人の一企業のノウハウも一人の裏切りですべてもっていかれてしまう。韓国は外国人技術者名簿を片手に金、酒、女とあれでもかこれでもか、と買収攻勢をかけていきました。しかし、ただの裏切り者の仕業とだけで片づけてしまっては、製造業の方向性それ自体を見失ってしまうと思うのです。

技術者の居場所がない

企業はその時の経営的決断に伴い、技術者の居場所がなくなる、ということが起きます。その際の一番悲しいことはビジネス上の撤退ではないでしょうか。製造業、特に半導体は初期投資が大きく技術の汎用化がはげしいため、いろいろな分野に資産を投資するよりも、一部の分野に投資を限定して他社が追いつけないほどの技術を構築してしまおう、という傾向にあります。いわゆる選択と集中というやつですね。
東芝がまだ聡明期のフラッシュメモリーを撤退する、ということがありました。撤退、というのは簡単ですが、これまでフラッシュメモリーを開発してきた研究者は、はい、そうですか、と納得できません。長い間情熱を注ぎ、睡眠時間を削って作り上げた技術やデータを泣く泣く捨て去ることはできないのです。それどころか、社内で居場所がなく、まったく畑違いのところに配置転換、という話も珍しくない。そこでサムソンが俺らなら投資してもいい、と声をかけました。私の会社でならそのままフラッシュメモリを作り続けてもいい。金を出そう、人をだそう。渡りに船と日本海をわたる技術者を私は責められません。似たような話はどこにもあります。これは誰も悪くないのです。本当に成功するかわからない分野に投資し続けるのか、経営判断はその連続だろうと。フラッシュメモリでは、サムソンの読みが正しかったとはいえ、ダメになる可能性は十分にあったのです。技術者でなくとも、多くのサラリーマンはこう思うのでしょう。明日はわが身だと。

技術流出

技術流出

リストラ

働き出して気付いたのは、技術は大きく二種類あるようです。匠の職人や特殊な装置によって成立する技術と、作り上げるのは難しいけども、一度できてしまえば、マニュアルさえあればできてしまう技術。前者は参入障壁はものすごく高い。一方、後者のほうは比較的簡単に国境を超えるようです。
さて、技術流出といえば、裏切り者が他社に技術を売り渡す、というイメージではないでしょうか、そういうこともあるに違いないでしょうが、よほど貧困というわけでもない限り、エリートの生え抜き技術者がそういうリスクを冒すでしょうか。どちらかといえば、リストラなど早期退職、定年から年金までの食いつなぎ、人事の不待遇などのほうが技術流出しやすいのではないか、と思っています。統計をとっていないので、あくまでも個人的な推測を出ない与太話なんですけども、そう間違ってはいないはずだと思います。
現在、韓国では40歳超えると、ほとんどの社員は簡単に退職を迫られ首になります。半導体でいえば、リストラされた多くは転職先としてその会社のライバル企業に移るようです。今は中国が大半だ、という話ですが、日本やアメリカに行っている例も少なくないはずだ、と思うのです。この意味で技術レベルは驚くほど水平化しやすく、技術を武器に差別化など、意味がない時代かも知れません。

独占と非独占のジレンマ

製造業において、技術は独占してなんぼ、という前提があります。他社の真似できない高度な技術は金のなる木といえば俗的すぎるでしょうか、数千円の原価のものが数百万円、数千万円を超えることもあり得るのです。しかし、だからこそ、といえるかもしれませんが、ユーザーやクライアントは独占されることを極端に嫌がります。当たり前ですよね、一度採用してしまえば、一年後に倍の価格に釣り上げられても買わざるをえない。そこで企業は仲間を増やす傾向にあります。かって東芝が資金不足と勢いがつかないフラッシュメモリーに業を煮やしてサムソンに技術を売るようにです。その後、瞬く間にシェアが覆され、気づけば撤退に追いやられた、ということは日本半導体の悲しい歴史である、といえるでしょう。似たようなエピソードは太陽電池でも液晶でも起こっているわけです。

結論

製造業から金融製造業へ。3Dプリンターブームが起こったとき、猫も杓子も多くの企業が3Dプリンターに手を出したことがありましたが、その膨大な企業の数に過当競争は避けられないな、と思ったものです。数年後には多くが撤退し、資金力とマンパワーを持っている企業だけが生き残ったと言えます。3Dプリンターじゃなくても似たようなことは起こっているのでしょうし、これからも起こるはずだ、と私は考えています。だとすれば、私なら、私の手元に3000万円あるとして、3000万円で3Dプリンターの会社を立ち上げるよりはむしろ1000万円ずつ、3つの会社に投資して、そのうちの1つが成功すればいい、と考えます。緩やかな財閥を作っていくイメージですね。シンプルに株式を分担させて連結で勝負する、というのがこれはわかりやすいですが、これを技術や設備で考えていきたい、と思う今日この頃です。